NARIAGARI TRIANGLE Vol.1 曲目解説
解説<曲について>
歌詞カードに各人の解説が載っていますが、ここで改めて、伊能四郎がアルバムの曲順に合わせて、“曲”について解説致します。“曲”と言っても“詞”以外のすべてについて語ります。独壇場で申し訳ござひません。
なお、“詞”については金銀銅次が書いています。
「我が心のパーパット」
「2つのグラス」
「渡せそうもないクリスマス・プレゼント」
「白い妖精」
松永さんも高場さんも大滝詠一に精通している訳ではありません。一方金銀は大滝マニアです。松永さんが曲を付けるということは、マニアが書いたナイアガラ系(?)の詞に、普通の人が曲を付けたらどうなるのか、これの実験と言えます。
「我が心のパーパット」は、元はワン・コーラスのみの作品で、松永さんも30分で作ったそうです。ところがこれが大変評判が良く、彼は「悩んで作ったものがいいという訳ではないんですねぇ」と言っていました。そうなんです。
ところで、「NARIAGARI TRIANGLE Vol.1」の曲順ですが、これは高場さんの原案があって、それに伊能が絡みました。高場さんの骨子は、“松永〜高場〜伊能の流れ”“A面1曲目は明る目の歌”“「白い妖精」の次は「白い雪女」”“A面最後は崎本武志さんの歌”“B面1曲目は「春日部の空」”“「この木なんの木」はシングル・カット”でした。後に「春日部の空」は都合によりなくなり、急遽「この木なんの木」がB面に入ったのです。
それで、なぜ曲順の話を出したのかというと、<A面1曲目は「我が心のパーパット」しかない>ということになったからです。「我が心のパーパット」のワン・コーラス版にはイントロのキーボードはありませんでした。そこで僕が<これからアルバムが始まる!という意味を表わすようなイントロを付けてくれ>とお願いして、こうなったのです。
ところで、松永さんは高校のときに<ちょっとだけ>(本人談)ドラムその他の音楽をやっていたそうです。そして、彼が今回創作活動に本腰を入れることになったきっかけは、去年、宥雄虔(ひろおけん)さんの番組「パルナッスからの贈り物」の「納涼放談」のために、松永さんに<曲を付けないか>と話を持ち込んだことによります。「納涼放談」では当時、<いろんな人から金銀の詞に曲を付けてもらう>という企画を実行しており、ある年の課題となった詞は「白い妖精」でした。明智さんにも参加していただきました。同じ詞なのにいろんな曲が聞けてなかなかに楽しい企画でした。また、別の年の課題が「僕の中の微笑み」で、そこで発表された曲のひとつが崎本さんの歌で、大大大大大ヒットしたのでした。松永さんも何度も参加してくれました。彼の歌は実に親しみ易く、既にこれだけの作品が作れるのだから、まさに“鍛えれば全身バネになる状態”ではないでしょうか。
なお、「渡せそうもないクリスマス・プレゼント」のエンディングはまだ続きますが、一部不協和音になるところがあるので早目にフェイド・アウトしました。
「白い雪女」
「エヴリデイ・エヴリナイト」
高場さんの歌はロックです。なぜなら彼はビートルズとローリング・ストーンズのマニアだからです。しかしクレイジーなファンではなく、ヘビーなコレクターでもなく、良くない歌は良くないと言い、いい歌はいいと言う、つまり公平に物事を見られる紳士です。それでもやはり作る歌はポップスの香りを含んだロックです。
高場さんはギターとベースは自分で弾き、小さいキーポードでドラムやピアノの音を叩いています。エフェクターは持っていないのでノー・エフェクトですが、昔僕が使っていたリヴァーブ付きマイク・アンプをあげたので、ヴォーカルにはときどきリヴァーブがかかっています。
なお、松永さんは「パルナッスの贈り物/納涼放談'95」の「白い妖精」で目覚めたので中古の高級キーボードを買って、それだけで歌作りをしています。エコーとかもそのキーボードのエフェクターを使っています。また、高場さんも松永さんも僕も同じ8トラックMTRを使っています。ヤマハの「MT8X」です。
「エヴリデイ・エヴリナイト」については、<ミスター・チルドレンの歌みたい>という感想をくれた人がいます。
「僕の中の微笑み」
前述の「納涼放談」で“金銀銅次の詞に曲を付ける”という企画を始めたのは'93年からです。つまり、'93年「僕の中の微笑み」、'94年「白い妖精」、'95年「2つのグラス」です。崎本さんはそのどれにも出品していますが、特に「僕の中の微笑み」は大変な評判を呼びました。どういう評判なのかは省略しますが、とにかく、老若男女すべてが異口同音に<あの歌のメロディーが頭から離れない>と漏らします(マジに)。すなわち出だしの“笑ったー”に笑ったーのです。しかも、オリジナルの、つまり「納涼放談」でかかったヴァージョンは、演奏が宥雄さんが打ち込んだリズム(ドラム)だけで、それに崎本さんが歌ったのみというオソロシクもスバラシイ作品だったのです。
高場さんも同様に感動(?)しました。彼は演奏を付け(幸か不幸か宥雄さんのリズムのおかげででテンポはずれない)、さらにホット・ファイブという謎のコーラス・グループを編成し、崎本さんの「僕の中の微笑み」に渋いコーラスを付けたのです。これには伊能も100メートルほど飛びました。あまりのいとおしさに当アルバムに収録することになったのです。しかし、アルバムには伊能と松永さんの余計なお喋りやオンチ・コーラスををオーヴァー・ダビングしています。1番の<茶髪じゃねえか><メイン・ヴォーカルです>、2番の<ま、いいじゃん、もうこうなったら>、3番の<誰から聞いたんだろね>、ラストの<ホントかね?>は伊能、1番の<誰がですか?><歌ってますね><やっぱり違うような気がする>、3番の<さあ?>、ラストの<イエイイエイ!>は松永さんです。
「この木なんの木」
「白い雪女」等と同様に高場さんがひとりで演奏したものです。アルバムのマスタリングのために能ヶ谷スタジオに3人集まったときに歌入れをしました。4番までありますが、アルバムの曲登場の順と同じく、1番を松永さん、2番を高場さん、3番を伊能が歌いました。メインを歌っている人がコーラスも担当しています。4番は全員で、このパターンはいかりや長介とザ・ドリフターズと同じですね。伊能も高場さんもドリフ大好きなんです。
「冷たい人」
「Elased Blue」
この2曲は高場さんのアレンジが光る、スーパー・カッコいい歌です。特に「冷たい人」の間奏の盛り上がりは最高で、“モリアガリ・レーベル”からシングル・カットしたいです。なお、デモ段階ではギターの逆回転はありませんでした。
「Elased Blue」も小さなキーボードで演奏しているとは思えない圧力が感じられ、完成された高場さんの感性が堪能四郎できます。
「優しい午後」
「カメリア・ダイアモンド」
「サヨナラ負け」
「残業で焼肉」
今回はすべて杉江さんの作曲・編曲で行こうと決めていました。大瀧さんをよく知っているという点では柳田さんにお願いする手もありましたが、杉江さんにはある程度のストックがあり、それに伊能が歌を乗せるだけで完成するため、その方が曲を作る側からすると比較的楽なのでは、と考えたのです。そして、それを“仕事の依頼”と題して杉江さんにお願いしたところ、快く(?)受けてくれました。
この4曲は本家「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」の曲順を意識しています。もしかすると杉江さんもそれを考えたのかもしれません。“優しい午後−オリーブの午后”“カメリア・ダイアモンド−白い港”“サヨナラ負け−Water Color”“残業で焼肉−ハートじかけのオレンジ”です。
「優しい午後」のサウンドは杉江さんいわく、「すこしだけやさしく」です。これの歌を伊能が入れるとき、鼻炎で“んー”の発音ができずに失敗したため、後日薬を飲んで再度挑戦しました。MTRは使っていません。コーラスを入れなかったのは「オリーブの午后」と合わせたものです。しかし、「残業で焼肉」が大評判だったのに対して「優しい午後」をいいと言ってくれた人はひとりもいなくて、それどころか<「神田川」みたいな古い感じがする>と言われてしまいました(笑)。こんなに爽やかなのにー(歌じゃなくて曲が)。
「カメリア・ダイアモンド」は急遽杉江さんが作ってくれたものです。彼は「カメリア」の詞をすごく気に入ってくれています。伊能は初めは「カナリア諸島にて」と同様に爽やかに歌っていたのですが、何度歌っても気に入らないためについにブチ切れて、ああなりました。出だしの<Oh yeah>は、杉江さんの「カメリア」には「カナリア諸島にて」のあの部分に当たる音がなぜかなかったので、つい歌ったものです。歌い方は西城秀樹と坂本九が混ざっています。<間奏!>は「はいからはくち」です。コーラスはMTRで録りましたが、歌はカセット・デッキで直接歌いました。
「サヨナラ負け」は「Water Color」に仕立てるため、それっぽいコーラスをMTRで録りました。歌は「カメリア」と同様、カセット・デッキで直接歌いました。
この「カメリア」と「サヨナラ負け」にはびろびろちゅももんなほどの別テイクがあります。カセット・デッキで歌ったことが要因ではありますが、ホ・ン・ト・に何度歌っても気に入らなかったのです。失敗したテイクを消さずにどんどん歌っていったところ、マスター・テープ1本丸々「サヨナラ負け」とか、異常な状態になりました。ただし、こうすると各方面で<別テイクだー>と言って発表するという遊びができます。
「残業で焼肉」はデモの段階からかなり評判が良く、歌い方やコーラス・アレンジもほとんど変わっていません。ただ、他と違うのはこの歌のみMTRをまったく使っていないということです。コーラスもハンド・クラップもカセット・デッキ2台を駆使して杉江さんのカラオケに積み重ねていったものです。何でそうなったかというと、その頃MTRがなかったのです。“優しい午後−残業−カメリア−サヨナラ負け”の順で歌入れをしたのですが、「カメリア」のコーラスを入れる段になって、<やっぱしMTRがないと難しいわい>と困って購入したのです。
ところで、「カメリア」の間奏後の<イエイイエイイエイ>とか「サヨナラ負け」の<好ーきーだーからー/あーあー>とか「残業」の<荒ーれーほーだーい/おーおうおうおうおう>とか、達郎もどきの発声は杉江さんの“歌唱用デモ”には入っていません。これらは何度も歌っているうちについ口を突いて出たものですが、多分ないよりもあった方がいいと感じています。伊能のような下手っぴな野郎には、“歌い込む”ことが大切みたいです。それでも音程は外れるのでもうびろろんです。
以上が“解説/曲について”でした。読むのにお疲れになりましたね。(いわしさん風に)まったく申し訳ございません。最後に一応一句詠みます。
ナリアガリ 元をたどればナイアガラ
凍りはしても枯れることなし解説:伊能四郎