NARIAGARI TRIANGLE Vol.1 曲目解説
解説<詞について>
歌詞カードに各人の解説が載っていますが、ここで改めて、金銀銅次がアルバムの曲順に合わせて、“詞”について解説致します。ただし、多くは「金銀銅次の世界」という作詞集の解説からの抜粋です。
なお、“曲”については伊能四郎が書いています。
「我が心のパーパット」
大滝詠一の名盤「A LONG VACATION」のフル替え歌アルバムであるところの、伊能四郎の「ALONG “A LONG VACATION”」用の詞です(本当にそーゆーアルバムが出るかどうかを追及してはいけません)。
「我が心のピンボール」は松本隆−大瀧詠一コンビの歌で、その題名は松本隆の傑作のひとつだと思っています。「1973年のピンボール」という誰かの小説もありますが、いずれにしても“それは恋のTILT”とはよく出来た詞です。「我が心のパーパット」は、この題と“それは恋のOB”というフレーズがふと浮かんだので、そこから書いていったものです。
「2つのグラス」
金銀銅次の処女作ですが、この詞には原型があります。それは物干壇(ものほしだん)というペンネームで友人の徳山さんが書いた「哀しき真夏の昼の午后」という詞です。これはナイアガラの様々な詞をつないだもので、名付けて“詞のサンプリング”です(?)。84年春(高校3年)に発表されたもので、徳山さんが作った詞はこれ1個しかありません。“作詞”というよりは“編詞”ですが、ナイアガラ・ファンでならではの技です。
「2つのグラス」は、「哀しき真夏の昼の午后」で掴んだイメージに、大滝詠一の「白い港」「カナリア諸島にて」「ペパーミント・ブルー」の情景を加えて作った詞です。初めは“さんがやって来るVersion”で、この詞に初めて曲を付けてくれた柳田さんは当時それで歌いました。その後、杉江和八(かずや)さんが曲を付けたので、そのメロディーに合わせて書き直したものが今回の詞です。サビが全然違うし、“君”もやって来ません。
「渡せそうもないクリスマス・プレゼント」
槇原敬之の「涙のクリスマス」の“もう渡すことのないクリスマス・プレゼント”という一節からイメージを広げたものですが、後半の詞は杉真理になったつもりで、“泣いているんだい”も「最後のメリークリスマス」です。
「白い妖精」
杉江さんから<大滝詠一の「魔法の瞳」のような詞を書いてほしい>と言われて作った詞です。89年頃に見た、JR東日本の「T.Y.O.」という、東京をコンセプトにした3Dポスター(裸眼立体視ではなく、赤と青のセロファンのメガネで見るやつ)の絵柄をイメージして作りました。そのポスターには、人らしきもの(「キテレツ大百科」のコロ助のような生き物)が空を飛んでいて、東京タワーを中心とした町並みを見下ろしているという絵が描かれていました。
サビの英語は、「魔法の瞳」で直訳っぽい“Magic in your eyes”があるので「白い妖精」でも“My fairy girl in white dress”としてみました。「白い妖精」という題名は、松田聖子の「冬の妖精」(大瀧詠一作曲)から来ています。
「白い雪女」
高場さんの詞は面白いです。“頭を床にズリズリと”は滅多に書けるものではありません。独特なものはどんどん発表すべきです。
なお、「白い雪女」は「白い妖精」のアンサー・ソングで、“白いドレスを着た/君はまるで妖精だね”が“白い着物はおった/君はまるで雪女だね”に名実ともに化けています。それで2曲は並んでいるのです。
「エヴリデイ・エヴリナイト」
金銀は宇宙の謎が好きなんですが、高場さんも興味を持っています。高場さんがある日<宇宙の果てはどうなっているんだろうなあ>と言ってきました。その後、この詞が出来上がってきたので、金銀は<高場さんは詞のことも考えていたのかな>と思いました。
「僕の中の微笑み」
これも89年頃、杉江さんから「ソーダ娘」という曲の詞を募集していると聞かされたことが発端です。「ソーダ娘」は元々「夏のサイダー・ガール」という題でしたが、「ソーダ娘」というタイトルの詞はすぐには浮かばなかったので別のテーマを考え、メロディーに合わせて作った詞が、この「僕の中の微笑み」です。題名は山下達郎の「僕の中の少年」から来ています。また、3番の詞の“結婚=名前が変わる”という図式は大瀧詠一の「レイクサイドストーリー」から来ています。
なお、崎本さんが歌っている詞は今ではボツとなった版です。“笑った顔しか思い出せないけれど/ふとしたとき見せた寂しげな横顔/忘れられない”という矛盾した情景でした。今は“笑った顔しか思い出せないのは/きっときれいな思い出しか/残ってないから”としています。
「この木なんの木」
これを歌うことを提案したのは高場さんです。これは当時の人気テレビ番組「特ホウ王国」を見ていた影響です。
しかしこの詞はいいですね。いつもTV画面に出てくるでっかい木も最高です。どこにあるのでしょうか?ナイアガラの滝も見たいとは思うけど、滝は見た目も音も巨大で怖いです。その点、あのでっかい木は“母なる大地」という感じで触りたいし下から見上げたいし登りたいです。
「冷たい人」
きつい言葉で振られた男の心理を書いたものです。“君”に対する、不満を含めた憐れみの気持ちと、擦れてゆく自分の心に対する驚きを表したつもりです。
「Erased Blue」
環境について書いたような感じです。題意は“消された青”という意味で付けました。
「優しい午後」
杉江さんはよく「わたぼうし音楽祭」に作品を応募しています。これは、身障者の人が書いた詞に曲を付けるという形式なのですが、そういった作品のひとつに「HAPPY SONG」という曲がありました。この曲をめちゃめちゃ気に入った金銀が、金銀の世界の詞を付けようと決心し、「HAPPY SONG」のメロディーに合わせて新たに書いた詞が、この「優しい午後」です。
「カメリア・ダイアモンド」
大滝詠一の「カナリア諸島にて」には“カナリア・アイランド”というリフレインがあって、それが「カメリア・ダイアモンド」に似ているなあ、と思ったのが作るきっかけです。
いずれにしても「カナリア諸島にて」そのままなんですが、少し技巧を凝らしたつもりで、「カメリア」の詞の各行頭は「カナリア」の詞の母音と韻を踏むように意図的に言葉を選んでいます。例えば「カナリア」の出だしは“「う」すく切ったオレンジを「ア」イスティーにうかべて”なので、「カメリア」では“「う」すいセロハンはがすように「あ」おいリボンほどいて”としました。
「サヨナラ負け」
金銀は、詞の題を詞と並行して考えるか、題は後から付けるかのどちらかがほとんどです。しかし、「サヨナラ負け」はこのタイトルが最初に決まっていて、それから詞を作ったという珍しいものです。優しい女の子を振ってしまうというヒドイ詞で、後悔しても時既に遅し、を表したつもりです。
「残業で焼肉」
仕事があるからではなく、生活費を得るためにやむなく残業するということが往々にしてあります。この詞は、残業による一時的な収入増に踊らされる、一般サラリーマンの悲哀を描いたものです(この説明は(E))。
タイトルはまたまた友人の落合さんが考えたもので、当時、毎日が定時帰りで手持ちの現金が不足しがちになり、<残業でかせいで焼肉でも食べに行きたいなあ>と言ったところから来ています。このテーマから金銀は「びんぼう」を連想したので、そういう雰囲気がかもしだせたらなあ、というつもりで書きました。
以上が“解説/詞について”でした。読むのにお疲れになりましたね。(いわしさん風に)まったく申し訳ございません。
一応、一句。
ナリアガリ もとをたどればナイアガラ
僕がやらねば 誰かがやるなり解説:金銀銅次